『可愛すぎる弁護士ゴルファーが教えるゴルフ保険』シリーズ。連載スタートから早くも大人気の山口先生に、ゴルフ場で実際に起きた事故について裁判例をベースに解説してもらいます。今回取り上げるのはシャンク事故で失明してしまったケース。後遺障害が残ってしまい、どのくらいの金額が賠償されたのか、詳しく教えてもらいました。
梶山法律事務所所属。交通事故等の損害賠償請求、離婚、相続等の身近な法律問題から、契約書作成や労務相談など企業や経営者からの法律問題まで幅広く扱う。女性ながらの細やかで丁寧な対応からクライアントの支持も高い。かつ、ゴルフ歴7年のゴルフ女子。好きなクラブはドライバーで、パワフルなスイングを持ち味とする原英莉花選手を応援している。Instagramアカウント(@megumi_lawyer) Instagram ゴルフアカウント(@megumi_golf)
◆グリーンまわりでボールが直撃! 左目失明
ゴルフをしていて自分が被害者になるのも怖いですが、人に怪我を負わせてしまって加害者になったら……。想像するだけでもゾッとしますよね。特にゴルフ経験が少ない初心者ゴルファーは、事故が起こる状況について想像もつかないと思います。連載では、いろんなケーススタディを取り上げていますが、このような知識を持っていれば、プレーするときに危ない場面だと判断でき自分の身を守ることができますよ。
今回取り上げるのはシャンク事故です。ラウンドしていたのは、加害者となった初心者ゴルファーと、被害者となったベテランゴルファーを含む男性4名で、事故が起きたのは、グリーンまわり。ピン位置はグリーン左の奥でした。
ベテランゴルファーのボールはグリーンのピン手前に乗り、初心者ゴルファーの打順となりました。HDCP7のベテランゴルファーはグリーン上でライン読みをしています。
初心者ゴルファーのボールは、グリーンから左に25メートル離れたラフの上で、グリーンの手前にはガードバンカーがありました。バンカー越えのラフからのピッチショットで緊張するシーンです。初心者ゴルファーは、「行きます!」と声をかけ、力をいれてアプローチショット!!手前のラフを打ってしまい空振りです……。
様子を見ていたベテランゴルファーは、初心者ゴルファーが態勢を整えて、1ターン休むものと考え、グリーン上で他の同伴者に目を向けました。
ところが、初心者ゴルファーはそのままアプローチショット。しかもボールがシャンクし、グリーンにいたベテランゴルファーのサングラスを直撃。不幸は重なり、割れたガラス欠片が左目に突き刺さって、ベテランゴルファーは失明してしまいました……。
◆裁判所の判断は?
損害額ついて (各損害項目の説明については第2回参照)
入院雑費 6万3000円
器具・薬品費 17万7000円
通院交通費 4万7000円
診断書依頼費用 2万5000円
医師に対する謝礼等 23万5600円
通院中の雑費 5320円
逸失利益1742万8808円(後遺障害8級、労働能力喪失率45%)
傷害慰謝料 150万円
後遺障害慰謝料 660万円
損害合計 2608万2228円
◆ベテランゴルファーの過失を6割も認定!
裁判所は、加害者である初心者ゴルファーの過失を4割と認定しました。初心者ゴルファーは、予想外のミスショットをして危険なボールを打つ可能性があるから、ボールの飛ぶ範囲内にいる同伴者の安全確認をすべきだったのに、声掛けしただけで、そのままボールを打った点に過失があると判断されました。
他方、裁判所は、被害者であるベテランゴルファーの過失を6割も認定しました。初心者ゴルファーは「行きますよ」と声がけしましたが、ベテランゴルファーはグリーン上にとどまったうえ、他の同伴者のプレイに気を取られ、初心者ゴルファーの動静に注意を払いませんでした。
しかも、初心者ゴルファーはラフからのバンカー超えのピッチショットという難しい状況であること、初心者ゴルファーの技術力からすれば、ともすればミスショットが飛んでくることは予想し得たのだから、初心者ゴルファーの動静を重々注視すべきであったと裁判所は指摘しています。また、初心者ゴルファーが1ターン休むものと軽々しく速断した点も、事故が発生した原因となったと指摘しています。
以上から、裁判所はベテランゴルファーの過失は大きいと判断し、少し注意を払っていれば避けられた事故として、6割の過失割合を認定しました。
結論 1043万2891円
初心者ゴルファーは、ベテランゴルファーに対して、2608万2228円の4割である、1043万2891円の賠償責任を負う結論となりました。
◆ベテランゴルファーは左目を失明・・・後遺障害ってなに?
「後遺障害」は、事故で負った傷病が、治療したにもかかわらず事故前の状態に治らないで症状が残ることをいいます。ちまたで、「後遺障害14級」などの言葉を聞いたことはありませんか。
後遺障害は、障害の程度や状態によって1級から14級までの等級に分けられています。労災保険で認定基準が規定されていて、保険の支払いや、裁判所の認定において労災保険の障害等級認定基準が使われています(認定基準については、ワンポイントチェック!の下に記載しています)。
今回のケースでは、ベテランゴルファーが左目を失明したので、後遺障害8級が認定されました。
◆山口先生のワンポイントチェック!
「今回のケースでは、過失割合に関して、加害者40%、被害者60%と、被害者の方が、過失を大きく認定したという点が興味深いですね。プレーヤーの経験や技術力や置かれている状況を把握しながらプレイしないといけませんし、初心者ゴルファーとまわるときは同伴者が初心者ゴルファーの技術力や判断力の足りなさをカバーしてあげることが求められているようですね。
また、今回のケースではベテランゴルファーの左目失明に後遺障害8級が認定されましたね。実務上は、被害者が傷害を受けて,更に後遺障害が残ってしまう事案はかなり多いです。
後遺障害の等級認定基準については、以下の表が参考になると思います。後遺障害の損害賠償については,等級に応じて慰謝料や逸失利益が算出されることになりますが、どれくらいの金額になるかという点については、またの機会にご説明できればと思います」