隣ホールへ打ち込み、損害賠償…過失割合に「フォァー!」が影響する理由

『可愛すぎる弁護士ゴルファーが教えるゴルフ保険』シリーズ。連載スタートから大人気の山口先生に、ゴルフ場で実際に起きた事故について裁判例をベースに解説してもらいます。今回取り上げるのは、隣接したホールへの打ち込み事故を起こしたケースです。被害の状況と責任について解説してもらいましょう。

山口めぐみさん

梶山法律事務所所属。交通事故等の損害賠償請求、離婚、相続等の身近な法律問題から、契約書作成や労務相談など企業や経営者からの法律問題まで幅広く扱う。女性ながらの細やかで丁寧な対応からクライアントの支持も高い。かつ、ゴルフ歴7年のゴルフ女子。9月20日(祝)に四街道ゴルフ倶楽部にて女子コンペを開催予定。興味のある方、参加したい方は、Instagramでメッセージを!Instagramアカウント(@megumi_lawyer) Instagram ゴルフアカウント(@megumi_golf)

◆左ドッグレッグで隣接ホールへ打ち込んでしまった…

イメージ画像/Adobe Stock

フェアウェイが左右のいずれかに大きく曲がっている「ドッグレッグ」のホール。名前のごとく犬の足のように「く」の字型に曲がっているホールですが、初心者は攻略に迷ってしまうことから、それだけに事故が起こりやすいホールでもあります。

今回はそんなドッグレッグホールでプレーしていて、隣のホールに打ち込んでしまったというケースを取り上げます。

事故が起こったのは5番ホール。4番ホールと5番ホールは隣接しており、4番ホールは真ん中あたりから進行方向左に曲がっている左ドッグレッグホールで、左へ曲がるあたりから5番ホールと隣接していました。

プレーヤーは4番ホールのティーイングエリアからフェアウェイ左にティーショットを打ったところ、思ったよりもボールがまっすぐ飛んでしまい、隣接している5番ホールに打ち込んでしまいました。そして不幸なことに、ボールは5番ホールのプレーヤーの右腕にあたり、右肘打撲の怪我を負わせることになりました。

隣ホールへの打ち込みは、誰でも起こし得る事故です。ヒヤっとした経験がある読者の方も多いのではないでしょうか。さて、この事故における裁判所の判断はどのようなものだったのでしょう。

◆裁判所の判断は? 

損害額ついて
治療費 10万6950円
通院交通費  9800円
慰謝料 50万円
費用合計 61万6750円

結論 61万7980円

◆どのような過失が認定された?

まず裁判所は、ゴルフは、ボールの方向性や落下地点を調節することが難しいことを前提にその正確さを競うスポーツであり、ゴルフコースの設置状況によっては、ボールが思わぬ方向に飛び、他人に当たる危険性をはらんでいると説明しました。

その上で、プレーヤーは、技量や飛距離に応じて、ボールが飛ぶ可能性のある範囲にいる他人の存在を確認し、他人を認識した場合は、打球を中止する義務があるとしました。

また、ボールの方向、勢い、飛距離、コースの利用状況、風向き、天候などから打ち込む可能性がある場合、プレーヤーには、事故を未然に回避するために大声を出して叫ぶ(「フォァー!」を言う義務)などの注意喚起措置を講じる義務があると判断しました。 今回のケースでは、5番ホールに打ち込む危険があったのに、加害者は、フォァーなどの大声を出すなどの注意喚起措置を取らなかったので100%の過失が認められました。

◆山口先生のワンポイントチェック!

「裁判所が示したプレーヤーの注意義務は少し厳しい印象を受けますね。ボールの行方、コースのレイアウト、天候…様々な状況を想定しながらプレーするのは至難の業です。

注意するのも限界があると思いますし、突然の事故は避けられないので、やはりプレーヤーとしてはゴルファー保険に加入して賠償責任を軽減するべきなのでしょう。

また、『フォァー!』などの大声を出す義務というのは、ゴルフならではの注意義務で、大変興味深いですね。

仮に今回のケースで『フォァー!』と大声を出していたら…?状況次第ですが、『フォァー!』の声が聞こえているのに被害者が漫然とプレーしていたら、被害者にも過失が認められて、打ち込んだプレーヤーの責任が軽減される可能性もあると思います。

皆さんも、打ち込みそうになったときは、間髪いれずに『フォァー!』と大声を出すようにしましょう!」

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