こんにちは、佐伯三貴です。今回は「ゴルフやりたい」と、子供に言われたら……と言うテーマで、お話ししたいと思います。
近頃、男子も女子もツアーで活躍する若手プロの多くは、ジュニア時代からゴルフを続けてきた経験を持っています。家族がゴルフをするから、と言うきっかけで始めた人も多いですが、中にはそうでない人もいて、事情は様々です。
Regina-webユーザーのみなさんの中には、お子さんのいる方も、そうでない方もいらっしゃるでしょう。また、将来、お子さんを持ちたいという方もいらっしゃるかもしれません。ほとんどの読者がゴルフを楽しんでいると思いますが、自分ではなく、子供に「ゴルフがしたい」と言われたら、どうしていいか考えてしまう方が多いのではないでしょうか。
◆子どもの自立を最優先。やらされている、と感じさせない環境を
まずは、近くの練習場などにいるプロのレッスンを受けてみることをお勧めします。ご両親があまりゴルフを知らないのならもちろんのこと、そうでなくても、できれば最初からプロに見てもらうのがいいと思います。ご両親が間違って覚えていることや思い込みでおかしなクセをつけてしまうより、基礎はきちんと覚えたほうが後々困らないからです。
大切なのは、決して強制はせず、子供自身に興味を持たせること。そして要所、要所は必ず本人に決めさせてください。私はジュニアも教えていますが、保護者には「お子さんの自立を最優先に考えています」と言って送迎だけしていただいています。
プロになるかどうかは別として、強制されてゴルフをすると、自分の気持ちが固まらないまま大きくなってしまいます。「(レッスンに)行かされていた」とか「(ゴルフを)やらされていた」と言う気持ちを抱いたままだと、うまくいかないときに「ゴルフをしていなかったら自分は違う人生を送っていたんじゃないか」と言う気持ちを抱いてしまいがちです。都合の悪いことをすべて人のせいにする現実逃避。これがクセになると、ゴルフだけでなく様々な場面で困ってしまうでしょう。
◆自分で決めた進路変更、東北福祉大学へ入学
以前にも書いたことがありますが、私の場合、環境的にゴルフはとても身近にありました。祖父の周りにはプロゴルファーがたくさん出入りしていたし、父もアマチュアとして競技をしていました。それでも、父は「アマチュアで楽しく(ゴルフを)やれや」と言うスタンス。私をプロにすることなど考えてもいなかったと思います。
だから、高校卒業後は、父が決めた通りハワイに留学。まずは、ローワーカレッジと言うところに通ったり、家庭教師についたりして、人生で一番勉強しました。勉強するために行ったので、ゴルフはほとんどしていません。そのうち「私、何しにここに来たんだろう?」と疑問に思うようになりました。日本の大学でゴルフがしたいと考え、半年で勝手にやめて帰国しました。
帰国後は、父に内緒で面識もない東北福祉大学の阿部靖彦監督に電話をしました。入学してゴルフ部に入りたいこと、それまでの事情を話しました。するとまもなく阿部監督が広島の実家に来て父と話してくださいました。東北福祉大入学には、こんな経緯があったのです。自立するためにも、自宅を出る必要があり、仙台にある東北福祉大入学は絶好でした。
始まって間もないQTを大学4年で受けて在学中にプロになった時も、父にはまたしても内緒でした。きっかけは、同級生がQTを受けると聞いたこと。「私も受けてみようかな」と、その気になったのです。
QTの結果は、シーズンの半分程度しか試合に出られない微妙なものでした。その後については監督に相談しました。監督に「オマエはどうしたいんだ?」と聞かれたときには、こう答えたのを覚えています。「半分のチャンスで優勝してシードを取る自信があります。福祉大で初めて、女子ツアーに勝ちます」と。今思えば大風呂敷を広げたものです。幸い、4試合目のフジサンケイレディス(2007年)で優勝することができたので大喜びしてくれました。
卒業に必要な単位は、大学3年までにすべて取っていました。これは友達のおかげです。もちろん勉強もしましたが「この授業は出なくちゃダメ」とか、引っ張って行ってもらったのが大きかったですね。監督には「ワガママ娘が在学中にプロになった」と言われますが「私はちゃんと卒業しました」とお返事しています(笑)。
◆自分の進む道は自分で決める。それが一番大切なこと
大学に行ったことで、ゴルフばかりが人生じゃないということもわかったし、息抜きの仕方もわかりました。人生の中で、これは大きなことです。大学の友達とは、プロになってからも、シーズン中の苦しい時に仙台に行って、友達と会って息抜きをするようなことが時々ありました。
父からは今でも「勝手にプロになって、勝手にやめやがって」と言われます(笑)。けれども、ハワイから戻ったときも、福祉大に入るときも、プロになるときも、試合から離れる時も、私は自分の進む道を自分で決めています。当たり前のようですが、これは大切なことだと思います。
もしお子さんが「ゴルフをやりたい」と言ったとしても、決して強要せず、自分で考えて色々なことを決めさせてあげください。ゴルフに限ったことではありませんが、私の来た道を振り返るとそれが、お子さんが自立するために、とても大切なことだと思います。
取材・文/小川淳子 写真/Getty Images