公益社団法人・日本生産性本部が発表した「レジャー白書2022」によると、ゴルフ人口はおよそ560万人。年齢別の割合は、20-30代が13%、40-50代が37%、60-70代が50%。ラウンド、食事、コミュニケーションと、ゴルフが年齢を問わず楽しめるスポーツということがわかります。
しかし、 ラウンド中の突然死が年間200件にものぼると言われているのをご存じでしょうか。 キャディである筆者がゴルフ場で働くようになって10年。救急車を要請する場面にも頻繁に立ち会いました。体調の急変によるものも非常に多く、私の友達もプレー中に脳卒中を起こしてドクターヘリで搬送されました。株式会社ビズリーチの多田洋祐社長がプレー中に急性心不全を起こし、40歳という若さで亡くなったニュースも記憶に新しいところです。
しっかりと準備をしたつもりでも、突然死に繋がることがあるゴルフ。気を付けた方が良い場面は? もし体調が悪いと感じたら? プレーするにあたって、知っておいた方が良いことをご紹介します。
◆監修医プロフィール
医療法人財団 百葉の会 銀座医院院長
日本医師会認定産業医
日本医師会認定健康スポーツ医
日本人間ドック学会専門医・指導医 等
◆ ゴルフ場では年間200人以上が突然死している!
ゴルフプレー中の突然死は、年間200件と言われています。(元聖マリアンナ医科大学、吉原 紳 助教授推計)とくに、40歳以上のスポーツ関連死はゴルフが圧倒的に多く、その原因は心筋梗塞などの心臓疾患が80%以上を占めています。(天野 篤 医師『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』(講談社ビーシー/講談社)『100年を生きる 心臓との付き合い方』(講談社ビーシー)より)
厚生労働省人口動態統計2022によると、40歳台の女性の死因は、1位・悪性腫瘍、2位・自殺、3位・心疾患、50歳台と60歳台では、1位・悪性腫瘍、2位・心疾患、3位・脳血管疾患となっていて、女性ゴルファーにとっても、ゴルフをする際には気を付けなければならないことがわかります。心疾患、脳血管疾患の原因としては、高血圧、脂質異常症、肥満、ストレス糖尿病、(メタボリック症候群)が挙げられており、そういった危険因子を持つ方はとくに注意が必要です。
◆ セカンドショットは魔の瞬間?! ゴルフ場での突然死のシチュエーション
ゴルフで突然死が起きる主な理由は、以下の3つとされています。
1. 年齢層
2. スタート時間
3. 心拍数と血圧の急激な上下動
【1】年齢層
突然死の主な理由としてまず考えられるのが、ゴルフをプレーする人の年齢層です。ゴルフ人口の年齢で最も多いのは、60〜70代。高齢になればなるほど心臓に異常のある人は増え、心筋梗塞のリスクとなる生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満)を持つ人も多くなります。
【2】スタート時間
心筋梗塞は、早朝や起床後2~3時間ほどの間に起こることが多く、生理的に血栓傾向が高まる午前8~10時の間が最も危険です。ゴルフのスタート時間はその時間帯と重なる可能性が高く、激しい運動やコンタクトを伴わなくても突然死が起こりやすい状況になりがちです。
【3】心拍数と血圧の急激な上下動
ゴルフは、ショットの際に瞬間的に全身の力を振り絞ることになり、心拍数や血圧が急上昇します。周囲から見られているという意識も伴って、ショットやパットの際には緊張状態になりがち。緊張するとアドレナリンなどのホルモンが分泌されて血圧が上昇し、心拍数も増加します。心拍数と血圧が乱高下することで、心臓や血管に大きな負担をかけることに。特に、喫煙や脂質異常症からくる血栓傾向があると、ショット前後の心拍数と血圧の急激な上下動が引き金となり、心臓に酸素をおくる冠動脈が詰まってしまう危険度が高くなります。
ティーショットをミスして、アップダウンのあるコースを焦って走り、緊張して打つセカンドショット――それが実は一番危険な瞬間なのだそうです。ゴルフ中は汗をかく割に、水分摂取を怠りがち。加えて、お昼どきにはクラブハウスでお酒を楽しみ、アルコールの利尿作用も相まって血液粘調度が上昇し、心筋梗塞や脳卒中のリスクは一気に高まることに。とくに冬の寒さは、心疾患や脳血管疾患といった循環器疾患にとっては大敵です。
夏場は更に、熱中症や脱水という危険な要素が加わります。熱中症は、真夏はもちろんですが、暑くなり始めの暑熱順化(暑さに慣れること)出来ていない時期こそ注意が必要です。
◆ゴルフ場で突然死しないために準備すべきこととは?
ゴルフで突然死しないためには、しっかり準備することが大切。まず大前提として、日頃の健康管理を十分にして、健康診断を受けましょう!
ゴルフは、運動不足で生活習慣病がある人でも気軽にできる優しいスポーツというわけではありません。運動不足の状態で、急にゴルフをすることは控えましょう。ゴルフを楽しむ前には、ウォーキングなど最低限の運動を習慣的にしておくことをおすすめします。スタート前には十分なウォーミングアップを行い、ラウンド中の飲酒は控えて、水分補給を十分にするようにしましょう。睡眠不足は突然死のリスクを上げてしまうので、ゴルフの前日は十分な睡眠をとるようにしましょう。
もし体調に異変を感じたら、無理にプレーを続行せず、即刻医療機関を受診するようにしましょう。一緒にラウンドしている仲間がふらついていたり、顔色が悪かったりなど「おかしいな?」と感じたら、すぐにクラブハウスに連絡。躊躇なく、救急車を呼ぶようにしましょう。AEDの説明会の機会があれば、是非経験しましょう。
ゴルフは老若男女がプレーできるスポーツであり、しっかりと準備をして行えば運動習慣の改善にもなり、健康保持にも非常に役に立ちます。競技でない限りは、ぜひ楽しいプレーを! ミスはあるものと考えて、気軽なゴルフライフを楽しみたいですね。
◆おだみなプロフィール
おだみな/元プロキャディ。男子、女子両ツアーで活動し、宮里藍プロのデビュー年からアメリカ本格参戦までの専属キャディとして転戦。現在は二児の母をしながら、近所のゴルフ場でハウスキャディとしてアルバイト中。学生時代に家族の影響でゴルフを始め、ゴルフ歴だけは長いがスコアはイマイチ。