ゴルフルールには「コースはあるがままにプレーし、球はあるがままにプレーする」という大原則があります。しかし、自然の中でプレーする以上、予期せぬ事態におちいることもしばしば。そんな事態にも対応できるように作られた「えっ?」と驚くようなおもしろいルールを紹介します。
ゴルフ中に「この状況、ルール的にどうしたらいいの?」と迷ってしまった経験はないでしょうか? たとえばカラスに動かされてしまったボールはどこから打つのかなど。特殊なシチュエーションではありますが、あり得ないとも言いきれない出来事です。どのようなルールで対応するのか詳しく解説します。
◆ゴルフにはおもしろく変なルールがある
先ほど例にあげたカラスによって動かされてしまったボールは、元あった場所に戻し、無罰で打てます。ここで肝心なのは、必ず元あった場所に戻さなければならないことです。たとえば、カラスがボールをカップインするまで運んでいったとしても、元の場所に戻す必要があります。元の位置があいまいな場合は、あったと思われる場所に戻してプレーを再開しなければなりません。
完全に回収できない場所にボールを持っていかれた場合は、その様子を同伴者の誰かが見ていたなどの確固たる証拠が必要になります。「たぶんカラスが持っていったかもしれない」では、認められない場合もあります。(規則9.6)
また、モグラが掘った穴に入った場合は拾ってもOKですが、犬が掘った穴に入ったらそのまま打たなければならないといったルールもあります。モグラが掘った穴はゴルフ規則上「動物の穴」であると判断され、無罰で救済措置を受ける事ができるのです。動物の穴は細かく言うと「穴掘り動物の穴」と定義され、住処として穴を掘る動物の穴を指し、犬の掘る穴は住処ではないため、救済は無しと判断されます。(規則16.1)
石にまつわるおもしろいルールもあります。どれだけ大きな石でも、動かすことができるならショットをしやすくするために動かすことが可能というものです。1999年に行われたフェニックスオープンでタイガーウッズの目の前には、大きな石が立ちはだかっていました。しかし、ギャラリーが協力して石を動かし、タイガーウッズがストレスなくショットできるスペースを作ったエピソードがあります。地面にひどく食い込んだ石でなければ、ルースインペディメント(分離された自然物)となり、無罰で移動できます。また、ひとりで動かせない場合は、他の人に協力してもらうこともできるので、タイガーウッズを救うことができたのです。(規則15.1)
ルースインペディメントに関するルールは、特に変わったものが多いです。たとえば木になったみかんに食い込んだボールを取り除くことはできませんが、グリーン上に落ちているバナナの皮は、無罰で移動できます。ボールがみかんに貼りついてしまった場合は、分離された自然物に当たらず、あるがままにプレーするか、アンプレヤブル(プレー続行不可能)を宣言して1打罰で所定の場所からプレーを再開するしかありません。しかし、グリーン上に落ちているバナナの皮は、分離された自然物と判断され、無罰で救済が受けられます。果物がボールに貼りついているのか、分離された自然物なのかが判断の分かれ道になるでしょう。(規則15.1)
◆なぜこんな特殊なルールができたのか
ゴルフに特殊なルールが多いのは、審判がいないためです。野球やサッカー、バレーボールなど多くのスポーツには、審判がいて、その都度プレーの正誤を判断してくれます。しかし、ゴルフはプレーヤー自ら判断する必要があり、個別で対応しなければならないため「こんなこといつ起こるんだ?」という細かいルールまで、公式に制定されているのです。
まれに起こる特殊な事例ですが、遭遇する可能性がゼロとは限りません。不意におとずれる状況も自分で判断して対応しなければならないため、ゴルフルールを少しでも多く知っておくことは大切です。また、ルールの知識が多いと救済をうけられる可能性も高まるのがゴルフのおもしろいところ。今回のおもしろルールをきっかけに、ルールブックを開いてみるのはいかがでしょうか。
取材・文/夢書房