間もなく、日本の女子ゴルフの頂点を決める「日本女子オープンゴルフ選手権」が開幕します。それに先立って、今年の6月。私にとって思い出深い、とあるコースに行ってきました。それは、神奈川県にある「戸塚カントリー倶楽部」。櫻井心那プロがツアー初優勝を飾った「資生堂 レディスオープン」の現地観戦に赴き、久しぶりにトーナメントの雰囲気を味わいました。
そこで思い出したのは、もう15年以上も前になる「日本女子オープンゴルフ選手権」の第38回大会。2005年に、同じく戸塚カントリー倶楽部で開催されたその大会は、私にとって非常に記憶に残る大会のひとつとなりました。
◆まさに社会現象の圧倒的ギャラリー数。宮里藍プロが勝利した、2005年「日本女子オープン」の記憶
2005年の「日本女子オープンゴルフ選手権」初日、首位タイに躍り出たのは、当時の女子ゴルフツアーを牽引していたと言っても過言ではない宮里藍プロ。筆者である私は当時、宮里プロのキャディとして、プレー中にもっとも近くで彼女を見てきました。まさかの連続ボギー発進だったにも関わらず、全く焦る様子がない彼女は、それからもいつも通り、淡々と同じペースでプレーを進めていました。
日々成長を遂げる彼女の横で、徐々に自分の力不足を感じていた私は、ひたすら空気のようにそっと側にいること、バッグを運び必要な情報だけを伝えること、そしてミスをしないこと……そんなことばかりを考えていました。
2日目に単独首位に立ち、そのまま独走状態に入った宮里プロ。それでも落ち着いたプレーは続き、苦しい場面に立たされても雰囲気は変わりませんでした。“優勝することが当然”と期待されすぎていた状況下、かなりのプレッシャーがあったと思うのですが、彼女はそんな緊張感を良い具合に集中力へと変えていた気がします。
最終日の最終ホールが近づくと、より集中力を増していくのはいつものこと。会話が減り、サングラスの中の表情が読めなくなってくると、私はその集中を妨げないように静かに業務をこなすだけです。ところが、18番ホールのティショットを終えてセカンド地点に歩く道すがら、信じられないほどのギャラリーが、まさに壁のようにグリーンを取り囲んでいるのが見えました。普段なら会話がなくなるような最終局面にもかかわらず、宮里プロが「やばい」だったか「すごい」だったか……驚く言葉を発したのを憶えています。
18ホールをかけてゆっくりと、コース内にいたギャラリーのほとんどを最終ホールのグリーン周りに集めた宮里プロ。テレビカメラがその横顔を追いかけるのを邪魔しないようにグリーンへと向かうと、フェアウェイがギャラリーに解放されました。いい場所を確保しようと走って押し寄せるギャラリーの足音。大ギャラリーにはずいぶん慣れたつもりでしたが、それには思わず振り向いたほどです。スタッフがロープを持ってギャラリーを誘導しているとはいえ、その迫力は凄まじいものがありました。
宮里プロの優勝で幕を閉じた「日本女子オープンゴルフ選手権」ですが、当時の同大会史上最年少優勝(現在の最年少記録は畑岡奈紗プロの17歳263日)記録であり、かつ、ギャラリー数4万8677人は、今もなお、史上最多観客動員数記録です。
大ギャラリーに囲まれた中でウィニングパットを沈め、ガッツポーズを決めたプロの横で、嬉しいという気持ちよりも、とにかく無事に優勝してくれたことに、ただただホッとしたことを憶えています。
◆今年の日本女子オープン、勝負のカギは風
今週末には、いよいよ今年の「日本女子オープンゴルフ選手権」が開催されます。今年の会場は、福井県あわら市にある「芦原ゴルフクラブ」海コース。1983年大会以来、2度目の日本女子オープン開催となります。シーサイドコースであり、アップダウンもあるコース。となると、気になるのは風。時間によって変わる海風と、地形によって生まれる上空で拭いている風と肌で感じる風の違いに悩まされる選手が多いのではないでしょうか。いかに風を味方につけ、振り回されることなくプレーすることができるかが勝負のカギとなるでしょう。
30代で「ベテラン」と言われてしまうほど、入れ替わりが激しい女子プロ界。20歳台後半のプロでさえ、既にベテランの風格を感じるほどです。常に新しいヒロインが生まれ、誰が勝ってもおかしくない状況にあります。先週、先々週と連続優勝を果たした岩井明愛プロが絶好調のまま3連勝を飾るのか。ベテラン勢がその実力を見せつけるのか。それとも新たなヒロインが誕生するのか。今週も女子ゴルフから目が離せません!
◆おだみなプロフィール
おだみな/元プロキャディ。男子、女子両ツアーで活動し、宮里藍プロのデビュー年からアメリカ本格参戦までの専属キャディとして転戦。現在は二児の母をしながら、近所のゴルフ場でハウスキャディとしてアルバイト中。学生時代に家族の影響でゴルフを始め、ゴルフ歴だけは長いがスコアはイマイチ。