みなさんこんにちは、若林舞衣子です。紅葉の美しい秋は、私たちツアープロにとってはシーズン終盤の大切な時期。試合も残り少なくなってきましたが、全力を尽くして頑張りたいと思います。
◆レベルの高い今シーズンのツアー。刺激を受けた若手のプレー
以前お話ししたように、今年はコロナ感染など思いがけないことがありました。けれども、それを受け入れながら、一生懸命できることをしています。
今シーズン、ここまでプレーしてきて感じているのは、ツアーのレベルの高さです。一昨年より、去年より、確実にレベルは上がっていると思います。
とくに夏場はハイスコアの試合が続いて、10アンダー出しても20位くらいにしかなれなくて驚いたことがあります。私自身、決して調子は悪くないのに、バン!とビッグスコアが出ないと通用しないんだな、と強く感じました。「どうやったらあんなにハイスコアが出せるのか」と言うことは常に考えています。
私に限ったことではありませんが、プロでもドライバーからパットまですべてがめちゃくちゃハマる、と言うことは滅多にありません。今年も、残念ながらそういうラウンドはまだありません。ハマらなくても優勝するときはするし、ハマっても勝てないこともある。それは十分にわかっています。
ただ、ちょっとびっくりしたのは、『NOBUTA GROUP マスターズGC レディース』での川崎春花さんのプレーです。最終日に3パットボギーでスタートして、バックナインの12番でも3パットボギー。それでも、5つバーディーを取って激戦を制しました。9月の日本女子プロゴルフ選手権でいきなり初優勝した時にも驚きました。でも今回はもっと具体的に「優勝争いの最終日にあんな風に3パットして勝つ。こんなことある?」と言うのが正直な感想です。
同時に、改めて「自分だけが3パットするわけではない」と言うことにも気づかされました。ゴルフでは、トータルの技術はもちろん大切です。でも、プロの試合ではメンタルが占める部分が大きいのも事実です。
ゴルフを始めてから、そしてツアーでプレーし始めてからの経験値というものは大きくプレーに影響します。経験がいい方に作用することは多いのですが、反面、負の経験も同じように蓄積していきます。
◆思い切ったプレーを邪魔する“負の経験値”とは……
負の経験の蓄積、というのは、ミスショットや3パットなどの記憶が、心に残ってしまうことです。それを大事な場面で思い出して体が反応してしまう。「ここで3パットしたらいやだな」などいうことが打つ前に頭を過ぎり、結果的に思ったように失敗してしまったことは皆さんも経験しているのではないでしょうか。男女問わず、ベテランプロが「若い頃のように思い切ったパットができなくなった」と言うのを聞いたことはないでしょうか。それも”負の経験値“なのです。
川崎さんはまだ19歳のルーキーですから、正の経験値も負の経験値も、34歳の私よりは少なくて当然です。川崎さんのように若い選手の「怖いもの知らず」がいい方に作用することが多いのは、負の経験値が少ないから、と言うケースを見ることはよくあります。
セッティング次第ではありますが、ガンガン攻めてスコアを出さなければ勝てない展開が最近のツアーでは比較的多い気がします。そうなると、「そのピン位置でそこを狙うの?」というようなショートサイドを狙ったショットや、思い切って打つパットなどが求められることになります。負の経験値が多ければ多いほど、そうしたプレーを”邪魔“することになります。
ただ、私より3つ年上の藤田さいき選手が、今年は何度も優勝争いをするほど頑張っています。「みんながピンを狙っているのを見て、自分もそうやって行ったらゴルフがよくなった」と、藤田さんが言っているコメントを見て、私も決めました。「自分から(そういう流れに)乗っていくのって大事だな」と。多分、今年の私はまだそこまで狙えていないのでしょう。去年はもう少しできていたのですが…。残りの試合では、その辺りも意識しながらしっかりやりたいと思います。
若林舞衣子 Maiko Wakabayashi 1988年生まれ、新潟県出身。165cm。11歳からゴルフをはじめ、アマチュア時代から活躍。2007年、プロテスト合格。翌年2008年「SANKYO レディースオープン」を20歳で初優勝。2016年に結婚し、2018年11月から産休に入り、2020年にはツアー復帰。21年の「GMOインターネット・レディース サマンサタバサグローバルカップ」ではツアー史上6人目のママさん優勝を達成。ツアー通算4勝。インスタグラム Instagram@maaaiko
取材・文/小川淳子 写真/Getty Images