「時間が足りない」とは、母親業を経験した人なら誰しも一度は思ったこと。現在9か月の双子のママである有村智恵プロも、双子ちゃんとの生活に対する質問に対して、他のママたちと同様な心境を吐露してくれました。産前とは全く違ってしまった状況や身体と、限られた時間の中でプロゴルファーとしてどう向き合っているのか。現在15歳の受験生がいる先輩ママであり、先輩プロゴルファーでもある佐々木慶子プロと一緒に、産後のゴルフについて聞いてみました。
【有村智恵プロのプロフィール】
1987年11月22日生まれ、熊本県熊本市出身。血液型O型。東北高校出身。ゴルフ歴は10歳から。優勝回数 14回（内、公式戦1勝）。2021年12月に一般男性と結婚し、翌年11月に妊活専念のため休養に入ることを発表。2024年4月に双子の男児を出産。
【佐々木慶子プロのプロフィール】
1976年11月06日生まれ、神奈川県川崎市出身。血液型B型。札幌日本大学高校出身。ゴルフ歴は19歳から。ステップ・アップ・ツアー2勝。
◆「飛ばないし、振れないし、押せない」
出産を終えたからといって、すぐに身体が元に戻るわけではありません。少しずつ大きくなっていくお腹を支えながら過ごす妊娠期間は、気が付けばお腹を守るような姿勢でいることが多くなりがち。出産を終えた後も抱っこの姿勢でいることが多く、気が付けば肩甲骨が丸まってしまい広く動作しないことに気が付いたそうです。
筋力も、特に足の筋肉が落ちていてとても不安定。スイングの切り返しでは、「左足の力が足りないと感じた」と言います。「ボールをしっかり押していけないので、本当なら『そこから転がる』というイメージなのに、実際には転がらない。」産後の体では思ったようにクラブが振れず、飛距離もガクンと落ちたそうです。
しかし、「身体が本来のものでない」ということはわかっているので、軽いクラブに変更するといったクラブを身体に合わせるようなことは一切せず、体を戻すことを優先。トレーニングを積み重ねて、その後にやっとクラブを微調整。最近は、長さを短くして振りやすくしてみるなど試行錯誤中だそうです。
佐々木プロは出産後に8番アイアンが120ヤードから100ヤードまで落ちてしまい、それを戻すのに2年かかったと言います。飛距離を戻すために「めちゃめちゃ練習した」という佐々木プロ。しかし、その練習時間の確保が出産前とは違い、「時間が足りない」と2人のママプロゴルファーは声を揃えて訴えます。
◆時間が足りないからこそ効率的に
「ショット、アプローチ、パターと、それぞれ納得するまで練習するとなると、最低でも4時間は無いと足りない。」という有村プロ。しかも、子供たちを家族に見てもらえる環境であっても、「大丈夫だろうか」とどこかで気になってしまい、集中して練習できる状況にならないと言います。
ところが、「産後のほうが飛ぶ」という、嘘のような話を耳にすることも多いのだとか。有村プロはその理由を「限られた練習時間と座学」によるものではないかと分析していました。練習時間が限られる分、より集中して効率的に練習する。トレーニングは、家の中でできるものを隙間時間を見つけてする。そして、座学が増える。限られた練習環境だからこそ効率的にならざるをえず、そのためか、クラブ性能の向上によるものもあるかもしれないけれど、産後の方が飛ぶようになったというプロも少なくないとのことでした。
とはいえ、これから子供たちが歩き出したらもっと時間がなくなるのではと恐々とする有村プロ。先輩のママの佐々木プロは、「保育園時代が一番練習できるかも。」と笑っていました。
出産後に、レギュラーツアーで優勝したプロゴルファーは6名しかいません（森口祐子プロ、樋口久子プロ、木村敏美プロ、山岡明美プロ、塩谷育代プロ、若林舞衣子プロ）。
国内の産休制度は徐々に拡充され、育休も3年まで認められるようになりました。しかし、ベビーシッターが身近な海外とは違い、日本ツアーは未だ託児所が充実しているとは言い難い状況です。大会中は朝が早いため、子供たちを預かってもらえる場所を探すことも一苦労。会場に連れていけない状況も多いかもしれません。
出産のためにプロ生活を諦める、逆にプロ生活を続けるために出産を諦める、そんなことが無いように、ママプロゴルファーとその子供たちが笑顔で参戦できるような環境がより整ってくれると良いなと思います。
◆おだみなプロフィール
おだみな／元プロキャディ。男子、女子両ツアーで活動し、宮里藍プロのデビュー年からアメリカ本格参戦までの専属キャディとして転戦。現在は二児の母をしながら、近所のゴルフ場でハウスキャディとしてアルバイト中。学生時代に家族の影響でゴルフを始め、ゴルフ歴だけは長いがスコアはイマイチ。
